竹内寿幸さんインタビュー

1. ヒサさんにとって、料理とはどのようなものですか?
料理とは、基本的に、神様と人間との共食だと思っています。それがお祭りの形で現れたり、儀式となったりする。そこには、喜びがあり、幸せがあります。
神様も食べる訳だから。食べ物は食べて美味しくて体にいいものであるはず。そういう意識から、私の提案しているニュー懐石では、食材はオーガニックを使うようにしています。

2. ヒサさんにとって、料理人とはどのような存在ですか?
日本料理人とは、神に仕える料理人です。本来は、点数を付けようのないもので、儲けを考えなくても良いものだと思っています。一番大事なのは、神様から与えられている自然をそのまま楽しめること。神様が万物を作り出していくのと、万物が神に回帰していけることが自分の中で一つのバロメーターになっています。体に悪いものを出すことは、自分自身の欲のために嘘をつくようなもの、良くないと思っています。そういうのが、料理人の姿勢であり、そういうのが、道元さんのいう精進の世界です。料理は、精進の道を歩むため、覚醒する、目覚めるためのもの。食べるというのはそういうことであると思っています。食べる行為は自分自身でしかできない行為。だからこそ、料理を作る側も、食べる側も、いただきますという心を意識することが大事。それが料理をする上で、食べる上でのエチック(倫理)だと思っています。

3. フランスで日本料理、寿司懐石をしているその心は?
フランスで生活をしていて、やっぱり、自分は日本人だなと思ったんです。じゃあ、日本の文化を外国で伝えるためには何をしたらいいかって考えてみた時に、僕は料理人で料理長でもある、自分の店を出すなら、ここは、フランス料理の国だから、フランス料理をやるよりは、日本料理をする方がいいんじゃないかと思いました。日本風スタイルをしたいなと思ったんです。
寿司レストランで、寿司を食べながら見てたら、寿司って握る人の手によってみんな違ってくるでしょ。あー、アートだなと。僕は、日本料理の中でも一番アート的なものを紹介したいなと思いました。国を変えて素材は変わっても、日本の文化の精神が残る形で料理をするには、日本料理を世界に紹介するには、寿司がいいなと。あの頃は、まだ寿司ブームじゃなくてね。寿司は、非常にアーティザナル(職人技)でいいなと思いました。そういう訳で、寿司懐石を始めました。

4. ヒサさんが提案しているニュー懐石とは、どのようなものですか?
僕がフランスで懐石を作るときに、国が変わって、味や素材が変わるかもしれないけど、懐石の精神が残るためには、現代アートの形式を取るのが一番いいって直感で思ったんです。「日本料理を、現代アートの中で付加価値をつけて世界に紹介する」という風に。だから、僕のつくるニュー懐石は一つの現代アートです。それに、千利休の懐石は、新しい息吹が無いと死んでいっちゃうと思うんです。そうならないようにするにはどうしたらいいか、それには、現代アートの精神を持たせて日本料理を作っていく、これが一番確かなと思った。それが、日本の文化を残すための方法だと僕は信じています。そういう意味で、ニュー懐石は、現代アートの形を取ります。
なぜ現代アートかっていうと、音楽や絵でも同じで、現代の美意識の世界では、作った人がどこの国の人というよりも、作った人それ自身のものの見方、政治に対する考え方とかポリシーとかが一番大事になってくる。人に喜ばれる絵を描いて自分の職業とするというのもあったけれど、僕は今に何かを言えるような、そういう料理人、そういう料理を作って行きたいと思った。日本料理を僕なりに伝えるには、現代アートの形を取る懐石料理を作るのが一番いいと思って、そういうのを作っています。
なぜ、食材がビオ(有機)かというと、僕の社会に対する意識の現われであって、金儲けの為だけに料理技術は駆使しません。経営者として、普通より高く素材にお金を払っているけど、食材の値段を落とすために農薬いっぱいの食材を使って金を設ける商売はしません。それは最低限度の料理人の務めだと思っている。そういう意味で、原発も反対です。

5. ヒサさんの料理は、音楽や絵画からのインスピレーションを受けたものがたくさんありますが、音楽、絵画とヒサさんの料理との関係はどのようなものですか?
僕は、料理をするときには、まず、音楽を掛けるんです。まず何か音楽を聴いて、それから、お客さんが入って来ます。そうすると、テンションが上がってきます。例えば、2人に対する仕事と、10人に対する仕事ではスピードが違ってくるのでしょう。だから、その時に適した音楽を掛けます。メロディーとリズムが大事なんです。僕は音楽を聴かないで、体で感じている。マッチしていればそれを聴きながら続けるし、マッチしていなければチェンジする。ここをオープン・キッチンにしたのは、お客さんの雰囲気、反応を感じるため。僕は料理を作るときに雰囲気作りをします。だから、お客さんの年齢や、ここに来た理由なんかでも、かける音楽をかえます。

 
僕ね、音楽っていうのは、基本的にブルースだと思うんですよ。ブルースっていうのは、黒人が馬の代わりに歯車を回したりとか、綿を摘んだりとか、そういう単純な労働をするために、いかにして労働時間をうまくつかっていくのか、そういうときに使っていた音楽。彼らは歌を歌いながら、太鼓を叩きながら労働をしていたわけですよ。音楽っていうのは、労働者が体を動かすときに、自分の体のエネルギーと音楽のエネルギーを合一させるって言うの?永遠のエネルギーをくれる。10時間仕事しっぱなしでも疲れない、そういう仕事の仕方はないかなって探したときに、僕は、音楽があれば10時間、全然大丈夫です。休みなしで、ずっと。音楽を聴くと、時間が止まっちゃうんですよ。仕事が終わると、あ、5時間、6時間たったんだって。そういう感じですね。なぜ、そういうことを選ぶかっていったら、そういう時っていうのは、時間が止まっているから、非常にハッピーですよね。そういう心の状態で料理をすると絶対失敗しません。僕自身の料理ですよね。そういう風に僕自身が体感していますね。
 絵っていうのはイメージ。僕は記憶とイメージに興味があって。例えば、全然知らない言語の音を聞いても理解しないけど、僕らは日本語とかフランス語を聞くと、雑音が意味になるわけでしょ。意味があるってことは、イメージができるってことですよね。僕は絵を見ていると、単なるイメージではなくて、意味が湧いてくるんですよ。なぜっていうと、絵は思考の形式だと思っているんです。見た絵を自分の頭の中にイメージとしてためて置くんですよ。自分が詰まった時に、そのイメージが出てきて、一つのソルーション(解決策)をくれるんですよ。盛り付けをするときは絵を見ながらやっているので、その絵と自分の頭の中のイメージを二重化させて仕事をしていますよ。非常に楽しい作業になりますよね。
イメージの中には、自分がこれまで過ごしてきた人生のいろいろな思い出(好きな人と一緒にごはんを食べたり、一緒に過ごした時のこと)が詰まっていて、人生って大切なんだな、人って大切なんだなって感じるじゃないですか。それが人を大切にする気持ちにつながるじゃないですか。自分自身が不幸なのに、人の幸せを祈るってことはありませんよ。自分自身がほんとに幸せで、ほんとに生きていて良かったなっていう気持ちが、今自分と同じ時代を生きている人に対して、自分と同じくらい幸せを感じてくれたらハッピーだねっていうのが、相手を思う気持ちになると思います。料理を作ることが苦痛、っていうよりも、幸せなんだよ、っていうふうに仕事をするのが一番僕はいいんじゃないかと思っています。そうやって料理を作っていて、そういうのがニュー懐石に全部入っています。

6. いろいろな本をエリザベスさんと共著で出版していますが。その意図は?
みんなに自分の持っているものを説明したい。本当の日本の料理っていうものを伝えたい。エリザベスもそれは同じ。で、それを言葉で写真で説明しようと思うんだけど、実は、根本的なことは説明できないんですよ。食べるっていうのはどういうことって、自分で食べるしかないんですよ。悟りって言うのは、自分で悟るしかないんですよ。
だから、本は、どこまでアンセニュモン(教えること)ができるかというギリギリを探す試み。で、本に書いてあるこれ以上のことは自分で体験するしかないんだよ、っていうことをなるべくメッセージとして残したいなと思ったんです。本当に書いてある通りにやれば習得できるんだけれど、これ以上のことは、自分で体験するしかない。自分で座禅をするしかないんですよ。座禅をする前の下ごしらえや心構えは、写真と絵と文字で書けるけれども、それ以上は書けない、ということをギリギリまで表現したい。それが、僕らが本を書く一つの意味ですね。読んでくれて、「あー、言葉っていうのは、ここで限界なんだな」っていうことを読んでくれた人が思ってくれればうれしいですね。僕らが書いている本は単なる料理の本ではないんです。そういうふうに思って、本を書くときは一生懸命やっています。

7.お客さんにはどんな風にニュー懐石を楽しんでもらいたいですか?


日本料理はこうだ、懐石はこうだ、フランス料理はこうだっていう知識は大事だと思うんですよ。やっぱり、教養・文化を持っているのは大事だと思うんですけれども。でも、うちに来たら、そういうのを全てニュートラルにしてもらいたいですね。シェフにお任せしますって(笑)。シェフを信用して、今まで勉強した絵とか音楽とかそういうものを全て横に置いて、「お願いします」って感じで楽しんでください。

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